俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
「何か、食べて帰る?」
「ごめんなさい。食欲なくて……また別の機会に」
空輸の事前手配で空港を訪れていた加賀谷に、羽禾はアパートまで車で送って貰うことになった。
「羽禾ちゃんって、どんな人がタイプなの?」
「……どんな人」
よく聞かれる質問だけれど、あまり深く考えたことがなかった。
優しくて誠実で……と、雑誌の取材やテレビ関係者には定型文みたいに答えていたけれど。
優しくて誠実だと思っていた人にさえ裏切られることはある。
「取り繕わなくても疲れない人ですかね」
「素を見せれるってことか」
「……そうですね。私、いい子ちゃんぶる癖がついてるので」
「そうなの?」
「……はい」
羽禾はあからさまににっこりと微笑んだ。
「俺はいい子ちゃんぶってていいと思うよ。それも含めて羽禾ちゃんだし。マイナス部分もひっくるめて今の羽禾ちゃんが、俺は好きかな」
赤信号で車が停止した。
運転席から向けられる基の視線は、羽禾の心の奥まで見抜いていそうで思わず視線を逸らしてしまった。
「今度、2人きりでどこかに行かない?」
「っ……」
「俺、素の羽禾ちゃん見てみたい」
「………ごめんなさい。気になる人がいて…」
「それって、瑛弦?」
「へ?」
「……フッ、やっぱりな」
(何でバレたんだろう?)
「いつも目で追ってるから」
「っっ……」
(そんなあからさまに目で追っていただなんて…。芙実から指摘されなければ自分ですら気付かなかったのに)
「そっかぁ~、瑛弦が相手じゃなぁ~…。もっと早くにアプローチするんだったなぁ~」
冗談なのか、本気なのか分からないけれど、彼の気持ちには応えられない。
「司波さんには言わないで下さいね?」
「はいはい」