俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
明らかに嫉妬だ。
本人を目の前にしたら、今までどうやって感情をコントロールしていたのかすら思い出せない。
「いつデートするんですか?」
「あ?」
「表彰台にのぼったら、デートしてって言ったじゃないですか」
「……あぁ、言ったな」
バーレーンGPのレース前日に彼が言った言葉。
彼は8番目のポジションからスタートし見事3位まで浮上して、表彰台を勝ち取った。
しかも、翌週行われたサウジアラビア戦でも3位になり、チームは活気づいている。
レース前に自身を鼓舞するために口にした言葉だということくらい分かってる。
分かってるんだけど、自覚してしまった自分の気持ちと複雑に交差して、心が落ち着かない。
「お前、……俺のこと、好きなの?」
声のトーンで気付いたしまった。
彼にとったら私は、ただの知人レベルなのだと。
だけど、初めて好きになれた人だから、そう簡単に諦めたくない。
「………好き、ですよ」
「じゃあ、付き合う?」
「へ?」
「俺の女になりたいんじゃねーの?」
「……え?……えぇっ?!」
「プッ、自分から言っといて、すげぇリアクション」
「だって、冗談かと…」
「冗談にしていいんだ」
「……ハッ、いえっ、困ります!」
本気なのか、冗談なのか、表情からは全く読めない。
「あの、……司波さんの彼女にして貰えるんですか?」
「彼女にしてもいいけど、正直『付き合う』の意味が分かんねーんだけど」
「へ?」
「男と女ですることって言ったら1つしかねーし、別に形に拘らなくてもよくね?」
「……」
「まっ、お前が『彼女になりたい』っつーなら、そういうことにするけど」
(あれれれれ?これは本当に不毛すぎる恋なのでは……?)