俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
「体の仕上がり具合はどうですか?」
「悪くはない」
瑛弦は仕事のスイッチがONになると攻めの姿勢に切り替わるが、普段は比較的無愛想で、一見何を考えているのか分かりづらい。
常にオラオラモードではないことを話すようになって知り、意外にも面倒見がよくて優しい人だった。
今もこうして、羽禾がいる場所に来てくれている。
羽禾が超がつくほどの方向音痴だから――。
オーストラリアは秋の紅葉シーズンで、移ろいゆく景観が美しい。
ロンドンだと彼は有名人だから、こんな風に公園内をデートするのも難しいが、ここなら周りの視線を気にせずにいられる。
公園内をゆっくり歩くだけなのに、それが物凄く愛おしい。
あの人と交際していた2年間は、こんな風にお天道様の下を堂々を歩くことすらできなかったから。
「手、繋いでもいいですか?」
「ん?……ん」
右手は羽禾のスケート靴を持ち塞がっていて、もう片方はパーカーのポケットにおさめられていた手が、羽禾の目の前に差し出された。
「冷たっ。お前いつもこんな手冷てーの?手袋しろ」
「最近冷えすぎて、痺れたりします。手袋持ってないので、プレゼントして下さい」
「末端冷え性ってやつか?……手袋、どういうのがいいんだ?」
「シンプルなやつ」
「色は?」
「司波さんの好みで」
「えいと、な」
「……瑛弦さんの好きな色で」
『付き合う』の意味が分からないとは言っていたが、女性の扱いは慣れている彼。
だから、こういう会話自体は難なくこなせることに、少なからず嫉妬してしまう。
彼に本気になって貰うには、どうしたらいいのだろう?
芙実が言ってたみたいに、甘えたりすればいいのかな……。