俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
結婚を意識した相手がいた。
その人に裏切られて、その場限りの男を求めた。
それが自分だったと知らされて、気分を害するのは百も承知。
だけど、例え興ざめになったとしても。
彼の前では、猫を被ることはしたくない。
これで彼に隠していることは本当になくなった。
「他の奴じゃなくてよかった」
「……え?」
「お前、無防備すぎるっつーか、危なっかしいつーか。無鉄砲なのか……?とにかく、隙がありすぎんだよ」
「……そうですか?」
「自覚症状なしかよ、怖ぇ~」
「しっかり者だとか、鉄壁だとかはよく言われますけど、隙があるだなんて初めて言われました」
「は?……お前の周りにいる奴ら、相当抜けてんじゃねーの?」
「そんなことないですよ!皆さん、凄くデキる人たちばかりです」
「ど~~だか」
誰からも求められる完璧な存在でいるために取り繕って来た人生で、初めて心を撫でられた気がした。
嫌われることも覚悟のうえで口にしたのに、彼は動じることなく。
いや、むしろ心が近づいた気がする。
「寝なくていいんですか?」
「寝ていいの?」
「え?」
「女より先に寝る男は嫌じゃねーの?」
「……考えたこともないです」
「あっそ」
(経験値が豊富な人は、言動の全てに余裕があるんだなぁ)
「いつもこうして女性が眠りにつくのを見てたんですか?」
「女の寝顔を見たのはお前が初めてだけど」
「へ?」
「その場限りの相手にそこまで尽くしたいと思ったことがない」
「……」
「あ、……自宅に連れ帰ったのも、お前が初めて」
「ッ?!!」
「何気に、初めて会った時からお前は特別だったのかもな」
「っっ」
彼の思いがけない一言に、一瞬で身も心も蕩けてしまいそう。