俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
「私も質問していいですか?」
「……ん」
視線を持ち上げ、彼の瞳を真っすぐと見つめた。
「どうしてF1ドライバーになろうと思ったんですか?」
「………」
交わっていた視線が、フェードアウトするように無言で逸らされてしまった。
もしかして、聞いてはいけない質問だったのだろうか?
F1GPシリーズの仕事を受けるにあたり、羽禾なりに色々と情報集めはしたつもり。
各チームの成り立ちからチームの個性だったり。
それこそ、各ドライバーの性格やドライビングの特性なども勉強した。
趣味や特技、家族構成など色々書かれているプロフィールは、仕事柄一番最初に頭に叩き込んだくらいだ。
けれど、『司波 瑛弦』というドライバーのプロフィールには『秘密』という項目が多くて、先入観から掴みどころがないミステリアスな雰囲気が叩き込まれている。
今もこうして寄り添っているのに、見えない薄絹を纏っているみたいで、触れられそうなのに触れることができない。
「ごめんなさい。誰にだって聞かれたくないことはありますよね」
F1ドライバーという特殊な職業に就いているからといって、小さい頃からの憧れだった……なんて単純なものではないのかもしれない。
羽禾は何事もなかったように、再び瑛弦の胸に頭を預けた。
すると。
「お前は何でアナウンサーになろうと思ったの?」
「え?」
拒絶されているのではなさそうだ。
彼の声音が刺々しいものではなく落ち着いていて、ほんの少しホッとした。