俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う

「私は4歳の時に母を事故で亡くしたんですけど、当時父の仕事が忙しくて。あ、父の職業は生物学者なんですけどね。大学の研究室に籠りっきりで帰って来なかったり、海外の学会に飛び回ってたりして、いつも叔母の家に預けられてたんです。年の離れた従姉がいるんですけど、その従姉がテレビ好きで、いつもテレビを通して遊んで貰ってるようなものでした」
「……」
「今思えば、父は母を亡くして仕事に没頭することで寂しさを埋めてたんだと思います。子育ては母に任せっきりだったから、娘の扱いにも困っていたのかと」
「……ん」
「従妹にも叔母にも好かれたくて、いい子でいることが絶対条件だったように思います。別に意地悪されたとか無視されたとかいうのは全くなくて、むしろ凄く優しくて温かい家庭でした」
「そっか」
「従妹が毎日瞳を輝かせてテレビの世界に釘付けになってたのを見て育ったので、テレビの中にいる人たちが魔法使いみたいに思えて」
「フッ…」
「あの世界の中で自分も魔法を使えるようになったら、自分みたいな境遇の子にも楽しめる世界を見せてあげれるんじゃないかと思って」
「そこは、自分が憧れたとかじゃねーのかよ。まぁ大まかな括り的には似たよーなもんなんだろうけど」
「そうなんですよね。入社試験の面接でも言われました。感動したからアナウンサーになりたいではないんですか?って」
「まぁ、お前らしいっちゃらしいけど」
「達観してたんでしょうね。こういう人間になれば、嫌われずに済むと無意識に考えるほどに」
「それでよく受かったな、入社試験」

 ポンと頭を撫でられ、くすっと笑みが零れた。
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