俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う

「アナウンサーって、俳優や歌手とは違うんです。画面を通して伝えるのは同じですが、夢を与えるのではなくて、事実を伝えるのが仕事なんです」
「……ん?」
「どんなに辛いことでも、ありのままを伝えれる力がアナウンサーには必須で、俳優や歌手を目指していたのならたぶん不合格だったと思いますが、私が目指す世界は、如何にいきいきと臨場感たっぷりで伝えられるか、なんですよ」
「なるほどな」

 事故や事件といった、人の心を抉るような出来事も湾曲せずに伝える能力こそがアナウンサーに必要な力。

 幼くして母を失った悲しみも、父親の心の痛みも、従姉家族の苦労も。
 全て目にして身をもって体験したからこそ、現実を受け止める力になった。

「父親とは今も疎遠なのか?」
「いえ、今は溺愛されてます。母が亡くなって2年くらい経った頃、叔母に諭されたみたいで。泣きながら迎えに来ました」
「……そうか」
「今は東京の大学で教授をしながら、教育番組に講師として出演したりしてますよ」
「マジで?すげぇな」
「他局ですけど」
「……ハハハッ、そりゃあ残念」

 教育番組(視聴率は中々取れない)なんて、各局あるわけじゃない。
 視聴率が取れなければ、幾らキー局とはいえ、番組を維持するのは不可能だ。

「何でF1ドライバーになったのかって聞いたよな」
「……はい」
「俺もお前にちょっとだけ境遇が似てるかも」
「へ?」
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