【書籍化】偽装告白から始まる悪徳外交官の溺愛
「お仕事はなにされてるんですか?」
 朱鳥は世間話として聞いてみた。
「公務員ですよ。あなたは?」
「事務です」
 とっさに嘘をついてしまった。

「じゃ、そのペン型カメラはなんのため?」
 言われて、思い出す。カーディガンにつけていたのだ。

「興味本位で買っちゃって。今日初めて使いました。迷子に声をかけるときに不審者だと思われないように」
 朱鳥はスイッチを切ってバッグにしまった。
 よくカメラだと気が付いたな。カーディガンについているのが不自然とはいえ。

 朱鳥は改めて彼を見る。
 やっぱりどこかで見たことがある。
 彼が前髪を邪魔そうに払いのけ、一瞬、切れ長の目が見えた。

 朱鳥は声を上げそうになった。
 あの外交官だ。先月、赴任地で幼女を誘拐して外交官特権で逃げた人。全世界から嫌われているワーストワンの男。

 エカルダル共和国では日本大使館前に「誘拐犯を許さない」とデモ隊が押し寄せたというし、日本でもバッシングがすごかった。勤め先では航平が記事をたくさん書いていた。
 テレビでは外交官特権の特集が組まれ、毎日うるさかった。

 外交官特権はいろいろあるが、今回話題になったのは「外交官の身体の不可侵」だ。これは逮捕・抑留・拘禁の禁止があり、だから彼は逮捕されなかった。

 日本に戻って来てたなんて。
 心臓がどきんと跳ねた。
< 11 / 58 >

この作品をシェア

pagetop