偽装告白から始まる悪徳外交官の溺愛
 特ダネが、向こうからやってきた。
 にわかに緊張し、朱鳥はコーヒーを飲んだ。
 なにか聞かないと。だけどなにを? 逃げられたら特ダネどころじゃない。慎重に。
 今日、迷子に近付いたのは本当に助けるため? それとも……。
 その前に名前を確認しなくては。

「私、花青朱鳥と言います。あなたは?」
「名乗る必要あるかな。もう会わないのに」
「できればまたお会いしたいです」
「デートのお誘い?」

 笑うように言われ、頭が真っ白になった。普通に考えればそうなのだろう。
「……そうです」
 うつむきながら答える。

 特ダネのためにデートを申し込むなんて、人として大事なものを捨てた気がする。政治家の不正を暴くなどの正義のためじゃない。求めているのは醜聞なのだ。

「……来週の土曜日の十一時、この駅で。来てくれたら、そのときは名前を教えるよ」
 男が答える。長い前髪のせいで、彼の表情はわからなかった。



 翌週、朱鳥は出社した。普段はリモートだが、最近は頑張っているアピールのために出社している。

 有名週刊誌と違い、芸能人にはりついて取材をする余裕がない会社だ。
 ネットやテレビの情報を元に書く記事が多く、取材らしい取材をしない。それらしく書いて読者にウケればいい。
 朱鳥はそれが、ずるをしているようで嫌だった。

 アフタヌーンティーのことを書いた方が女性にはウケそうなのに。
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