【書籍化】偽装告白から始まる悪徳外交官の溺愛
 こんな素敵な笑顔の人が本当に誘拐を?
 疑問がわいてくる。彼が無実ならとんでもないスクープではないだろうか。

 心臓が早鐘を打ち始める。
 でも、どうやって調べたら? エカルダル共和国に取材に行くお金なんてないし、あちらで使われている言語すら知らない。

「次、行こうか」
 自然に手をつながれ、朱鳥はさらにどきどきした。



 彼が皮肉なことを口にしたのは最初だけだった。
 その後は普通のカップルのように魚を見て、感心したりジョークを言い合ったりして笑った。

 ペンギンコーナーでは、かわいくて何枚も写真を撮った。
「ペンギンって、決まったパートナーとずっと一緒にいるんですよ」
 言ってから、しまった、と思った。男性は女性が自分より上だと思えることを嫌がるはずだ。こんな豆知識を披露したら嫌われてしまう。

「おしどり夫婦なんだね」
「本当のおしどりは季節ごとにパートナーが違うんですよ」
 ついまた言ってしまった。

「詳しいね」
「一時期、調べてたので」
「すごいな。俺なんて調べようとも思わない」
 称賛がうれしくて胸が高鳴った。

 航平は朱鳥が自分より知識があるとわかると機嫌が悪くなった。
 この会社にはそんなの必要ない。無駄知識。
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