偽装告白から始まる悪徳外交官の溺愛
「どこ行ってたの」
 ベビーカーを押した女性が現れた。男の子を探し回ったようで汗だくだった。ベビーカーの赤ちゃんはすやすやと眠っている。

「ママ! 風船が木につかまったけど、あの人がとってくれたの!」
「まあ。ありがとうござ……」
 言いかけた女性の顔がひきつった。

「誘拐犯!」
 直後、はっとしたように頭を下げた。男の子を連れて足早に去って行く。

 朱鳥は恭匡を見た。
 彼は皮肉な笑みを口の端に浮かべ、やるせなさそうに目を細めている。
「私、ワンピースなんですよ。なのに肩車なんて」
 朱鳥は今さら文句を言う。誘拐犯、という単語は無視した。

「取ってあげたいって君が言うから」
「そうですけど」
「大胆にスカートをまくって度胸があるな」
「誰のせいで!」

「悪かったよ。さっきは子どもが泣きそうだったから」
 彼が謝るのを、ふてくされて見る。
 視界の隅に、アイスクリームのキッチンカーが映った。
「アイス買ってくれたら許します」
 朱鳥の言葉に彼は苦笑した。
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