【書籍化】偽装告白から始まる悪徳外交官の溺愛
ベンチに二人で並んで座り、カップに盛られたアイスを食べる。
「マンボウってフグの仲間なんですよ。あの巨体で」
ふと思い出して、朱鳥は言った。
「フグ、ということは食べられる?」
「そうですよ。刺身とか唐揚げとか」
言って、アイスをスプーンですくって食べる。
「私、このとろけた部分がすごい好きなんです。すごく美味しく感じません?」
「確かに」
彼もアイスをすくって食べる。
夕方のぬるい風が二人の間を通り過ぎて行く。
遠くで子供が笑い声をあげながら走っていくのが見えた。
恥ずかしい思いまでしたのに、肝心の特ダネはなにもない。
誘拐犯とのデートは普通でした。そんな記事に誰がお金を出すものか。
こういうときの取材法など、ほのぼの動物ニュースを書いてきた自分にあるわけがない。
「君さ、気付いてるでしょ」
「なんですか?」
どきっとしてとぼける。が、彼には通用しなかった。
「最初は偶然だろうけど、俺が誰かわかっていて近付いた。そうだろ?」
「誰って、誰?」
「剱地恭匡」
フルネームを言われ、どきりとした。
やはりあの外交官だった。今は外務公務員と言うべきだろうか。