【書籍化】偽装告白から始まる悪徳外交官の溺愛
3
月曜日の朱鳥は出勤後、ぼうっとしていた。
思い出すのは、恭匡の皮肉をにじませた笑顔。
キスしちゃった。
深く深くため息をつく。
好きになっちゃいけない。
そう思うのに、ことあるごとに彼が浮かび、胸を揺さぶられる。
自分はもう、彼のことを好きだ。
告白でごまかしたとき、たぶんあのときにはもう好きだった。
彼は目的に気が付いていた。なのにつきあおうだなんて、どういうつもりだろう。
彼はこのまま心を許してくれないかもしれない。ならば報われることのない恋だ。こんな恋人ごっこ、いつまで続くかわからない。
きっと今ならまだ引き返せる。これ以上は好きにならないようにしないと。
迷子を保護したときは純粋にいい人だと思っていた。
外交官時代、本当に誘拐したのだろうか。
だが、していないのならば、どうして公式に否定しなかったのだろう。
真実はどこにあるのだろう。
連絡先はキスのあとに交換した。
彼はその晩すぐ、メッセージをくれた。帰宅の確認だった。
着いたよ、と教えると「良かった。おやすみ、愛しい人」と返事が来てびびった。
こんなにストレートに愛を囁く人は今までいなかった。
彼の真意はどこにあるのだろう。
あの悲しみの気配は、やはり誘拐疑惑のせいだろうか。
冤罪なら、彼はずっと傷付いてきたはずだ。
人間不信になったかもしれない。そんな人を騙そうとしているのか。
「自分、バカすぎる」
ため息をついた。