【書籍化】偽装告白から始まる悪徳外交官の溺愛



 月曜日の朱鳥は出勤後、ぼうっとしていた。
 思い出すのは、恭匡の皮肉をにじませた笑顔。
 キスしちゃった。
 深く深くため息をつく。

 好きになっちゃいけない。
 そう思うのに、ことあるごとに彼が浮かび、胸を揺さぶられる。

 自分はもう、彼のことを好きだ。
 告白でごまかしたとき、たぶんあのときにはもう好きだった。

 彼は目的に気が付いていた。なのにつきあおうだなんて、どういうつもりだろう。
 彼はこのまま心を許してくれないかもしれない。ならば報われることのない恋だ。こんな恋人ごっこ、いつまで続くかわからない。
 きっと今ならまだ引き返せる。これ以上は好きにならないようにしないと。

 迷子を保護したときは純粋にいい人だと思っていた。
 外交官時代、本当に誘拐したのだろうか。
 だが、していないのならば、どうして公式に否定しなかったのだろう。
 真実はどこにあるのだろう。

 連絡先はキスのあとに交換した。
 彼はその晩すぐ、メッセージをくれた。帰宅の確認だった。
 着いたよ、と教えると「良かった。おやすみ、愛しい人」と返事が来てびびった。
 こんなにストレートに愛を囁く人は今までいなかった。
 彼の真意はどこにあるのだろう。

 あの悲しみの気配は、やはり誘拐疑惑のせいだろうか。
 冤罪なら、彼はずっと傷付いてきたはずだ。
 人間不信になったかもしれない。そんな人を騙そうとしているのか。

「自分、バカすぎる」
 ため息をついた。
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