【書籍化】偽装告白から始まる悪徳外交官の溺愛
どうしてだか、恭匡は恋人ごっこを続ける気らしい。
次の土曜日にも会いたいと言われ、朱鳥は出掛けた。
待ち合わせた駅にTシャツにジーンズで行く。彼も似た服装で眼鏡をかけていた。
「おそろいみたいでいいな」
彼が笑みに目を細めるから、朱鳥は顔を赤くした。
「また肩車になったら困りますから」
答えると、彼は少し首をかしげた。
「恋人なんだから敬語はやめてくれ」
「わかりました。——あ」
「敬語を使うたびにキスをしようかな?」
「やめてください」
ふふ、と笑って彼は朱鳥の頭を抱き、その天辺にキスを落とした。
朱鳥がびくっと震えると、彼はすぐ離れてふふっと笑った。
「今日はどこへ行こうか」
恭匡が聞く。行く先は当日の気分で決めよう、と事前に話していた。
「映画館とかプラネタリウムとか?」
彼は目をすがめて朱鳥を見た。
「薄暗いところばっかり。積極的だね」
「違います!」
両手と一緒に首を振ると、恭匡は笑った。
「人目を気にしてくれたんだろうけど、いいよ。君が一緒ならどこでも」
肩を抱かれて耳元で囁かれる。 ダメだ、と朱鳥は照れてうつむく。
こんな甘く囁かれたら耐えられない。引き返そうとする恋心を、いっきに彼に引っ張られる。心の綱引きは彼が圧勝だ。