【書籍化】偽装告白から始まる悪徳外交官の溺愛
「夢がない」
「悪かった。すねるのもかわいいけど機嫌を直して」
 彼の手でやわらかく髪を撫でられて、朱鳥は動揺した。

 彼は本当はどう思っているのだろう。
 朱鳥が告白したから、簡単に手に入ると思ったのだろうか。遊ばれてポイされる未来が待つのだろうか。
 そのほうがいい。それなら彼を利用することにためらわずにすむ。ご同類のだましあい。それならば。

 店員がケーキとアイスコーヒーを持ってきた。朱鳥がシャインマスカットのケーキで、彼がチョコケーキだ。
 朱鳥は目を輝かせてスマホを構えた。
 恭匡は苦笑して撮影を待ってくれた。
 撮影が終わると、彼はフォークでケーキをすくって朱鳥に差し出す。

「え?」
「口を開けて。あーん」
「でも」
「ほら、早く」
 優しい笑みに色気が漂う。

 朱鳥はどきどきしながら口を開けた。彼の動きに合わせて口を閉じる。唇をなぞるようにしてゆるりとフォークが引かれた。彼の手で触れられたかのようで、背筋が甘く震えた。

「おいしいのわかったから、もういい」
 朱鳥は自身の前にあるケーキをフォークでマスカットごとすくう。
「どうぞ」
 フォークごと渡そうとすると。
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