【書籍化】偽装告白から始まる悪徳外交官の溺愛
「その時代が今に影響してるなんて不思議な感じ」
「俺は歴史が現代につながってることに感動したな。ただ、南米が多いからスペイン語なんて勉強してもって言われることもあった」

「南米はダメなの?」
「一般論として答えるが、人気、不人気の国があるよ。開発途上国なんて、ちょくちょく停電や断水があって不便でさ。インフラが不十分なら外交官の家でも平等に停電だ。あと、国を問わず在外邦人には文句言われがち」
 彼がおどけて言うから、思わず噴き出した。

「苦労してるのね」
「毎日パーティーしてるわけじゃない……ってまた夢がないって怒られるのかな?」

「そこまで能天気じゃないよ。大変そうなイメージはあったし」
「やることが多いし、世界のスピードに合わせなきゃいけないし、即断即決。間違ってはいけない。大変だけどやりがいもあったよ。他国の友人が増えるのも楽しいしね」

 恭匡は懐かしそうに目を細めた。出会った人たちを思い出しているのだろうか。
 ライターとして生活できるかどうかキリキリしている自分とはスケールの違う世界で生きている。

 その人がどうして今ここにいるのだろう。
 聞きたい。
 だけど。
 聞くのは、彼に対する裏切りのように思えてしまう。

「君のことも聞きたいな」
 言われて、びくっと震えた。
「私なんて大した事ないから」
「好きな人のことを知りたいと思うのは当然だろ?」
 甘く見つめられ、朱鳥は罪悪感で目をそらした。
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