偽装告白から始まる悪徳外交官の溺愛
 最初、芸能人とはいえ他人を悪く書きたくないからやんわり表現したらリテイクの嵐だった。

「もっと過激に煽情的に書け! おきれいで上品な文章なんざクソだ! うちはそういうエンタメなんだよ!」
 勝則は自社の作っているものをよく理解しているのだろう。

 より下品に、より下世話に。そうした文章を書くたび、大事ななにかがすり減っていく気がした。

だからなるべくゴシップ以外を書いた。芸能人のほんわかエピソードを重大事件が起きたように大袈裟に書いて、PVを稼いだ。

 以前、朱鳥は一般の会社で事務員をしていた。
 小説が好きで、学生時代にはたくさん読んでいた。小説家は無理でも現実のできごとを書くライターにならなれるかも、と就職の際は出版社を受けまくった。が、すべて落ちた。

 あきらめて普通の会社に就職した。
 憧れの気持ちを捨てきれず、三年前、副業でウェブライターを始めた。

 最初は一文字で〇.一円という格安だった。
 五百字書いても五十円。文字数の指定があるから勝手に増やして稼ぐなんてできない。
 リサーチの時間に給料は出ない。時給に換算したらとんでもなく低い。ファミレスでバイトをしたほうがよほど稼げる。

 たくさん書いて書き直して。
 求められたクオリティに達せずに怒られることはなんどもあった。ライターならば文章は売り物で、買い手からすれば粗悪な商品に金は出せない。

 報酬を払ってもらえないこともあった。警察には行きにくいし、泣き寝入りした。その会社に悪評を広められたらライターとしては終わる。ライターは掃いて捨てるほどいるのだから。
 そんな苦労はあっても文章を仕事にできる喜びがあった。

 検索で上位に来る書き方を研究した。得意ジャンルがあるといいと知ってからは動物の豆知識を調べた。美容や芸能情報のほうが需要があるし医療などの専門のほうが重宝がられるが、興味のないものだと続けられないだろうから、好きなものをと思ったのだ。
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