【書籍化】偽装告白から始まる悪徳外交官の溺愛
月曜はまた憂鬱に出勤した。
編集長は今日も不機嫌に怒鳴り散らしている。売上が上がっていないのだ。競合が多いから、生き残るにはぱっと目を引く記事が必要だ。
彼のことを記事にしたら。
誘惑がわいてくる。
だが、疑惑の外交官が迷子を拾い、風船をとってあげた、そんな内容でどうするというのか。
記事を書いて、彼にどう思われるのか。彼がどうなってしまうのか。
確実に自分は軽蔑される。自分の生活のために、彼がさらしものにされる。
そんなの耐えられそうにない。
だが、このままでは首をきられる。文章で生活していくのは夢だったのに。
だったら、彼の無実を証明する記事ならば。
自分の生活も確保できて彼のためにもなるはずだ。
席につき、エカルダル共和国を調べる。
南アメリカ大陸の北西に位置する小国。首都はリト。人口は五百万強。バナナ、コーヒー、カカオが特産。キリスト教徒が多い。主要言語はスペイン語。
誘拐疑惑の外交官の記事を見るが、日本の記事では朱鳥が知る以上の情報はなかった。現地の記事を翻訳にかけて読んだとして、どれほどの成果が得られるだろう。彼が無実である新証拠など、その程度で見つかるはずがない。
バッグからペン型カメラを出して動画を見る。
なんど見ても、彼は優しい人にしか見えない。
「お前が撮ったのか?」
動画を消して振り返ると、航平が画面をのぞき込んでいた。
見られてしまった。彼があの外交官だと気付かれただろうか。
「テスト撮影しただけ」
ふうん、と航平は興味なさげに答える。