【書籍化】偽装告白から始まる悪徳外交官の溺愛
「どろぼう! 嘘つき! 事実をゆがめるなんて最低!」
「事実なんていくらでも作れるんだよ。大衆は真実なんてどうでもいい。日頃のウサをはらせればいいんだ」
「そんなの、情報発信者のすることじゃない!」

「手柄を取られたからってつっかかるなよ。ネタは自衛するのが基本だろ。管理が甘かった自分を反省しろ」
 勝則が言う。

 その通りだ、と朱鳥は歯噛みする。自分が甘かった。航平がそこまでするとは思っていなかったし、データが入ったものをバッグに入れて守ったつもりの自分が悪い。お手洗いなどで離席したときに盗まれたのだろう。

 だが、反省だけではすまされない。自分のせいで恭匡が攻撃されている。
 席に戻ってスマホを取り出すと、恭匡からメッセージが来ていた。

『油断した。見事なハニートラップ、君は優秀なスパイだな』
 彼の皮肉な笑みが見えるかのようだった。

 違うのに。
 スマホを抱き込んで、机につっぷす。
 違うのに。どうしたらいいの。
 胸は裂かれるように痛いのに、涙も出ない。
 違うの、聞いて。
 手が震えて、彼へのメッセージは一文字も打てない。

 どう弁明しても撮影していたのは朱鳥だし、朱鳥の不注意で彼が窮地に陥っている。
 外務省での立場はただでさえ微妙だろう。
 これが追い打ちになれば彼はどうなるだろう。
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