【書籍化】偽装告白から始まる悪徳外交官の溺愛
 震える手でスマホを操作する。
 フリーメールを作成し、動画のアカウントをとる。
 そうして、動画にコメントする。
『誘拐の決定的な証拠じゃなくない?』
 反応はすぐに来た。

 同類乙。
 本人乙。
 やべえやつ来た。
 あとは見たくもない誹謗中傷の嵐だった。

『この人は迷子を保護しただけだよ』
 再び書き込んだ。
 なんども流れを変えようとチャレンジしたが、すべて否定の反応だった。

 この人たちは。
 朱鳥は絶望とともに画面を消した。
 見たいものだけを見て、悪意をぶつける対象を求めているだけだ。なにを言っても通じない。



 夜遅く帰った朱鳥は、すぐにテレビをつけた。動画はニュースでも報道されていた。断定こそしていないが、誘拐の印象しか持てない作りだった。

「外務省には問い合わせが殺到しています。動画はアメリカなど海外でも話題になっており、エカルダル共和国ではトップニュースになりました」
 朱鳥は陰鬱にニュースを見る。

「撮影者が早く助けなかったことに批判がありますが、どうでしょう」
 アナウンサーが水先をむけるとコメンテーターが答える。
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