【書籍化】偽装告白から始まる悪徳外交官の溺愛
「どうしても連絡とりたいんです。お願いします!」
「迷惑行為をなさる方の出入りは禁止させていただいております」

 店長が険しい顔で言う。言外に出て行けと言われている。
 朱鳥はあきらめた。

「では、伝言をお願いします。彼女の子どもを助けた人が誘拐犯だと誤解されています。テレビ局に名乗り出ていただければきっとすぐにおさまると……」
 涙があふれてきて、語尾は消えた。
 そんなことをしてくれる人、世の中に何人いるだろう。

 彼が世界でバッシングされた外交官だと知れば、我が子が被害に遭いかけたのだと誤解して恐怖におののくだろう。風船をとってあげたのに、ベビーカーのママはあれだけ怯えたのだ。

「失礼します」
 店長に背を向けて歩き出し、涙を拭った。
 彼はきっと、泣くなんてものじゃない状態になってるはずだ。
 できる限りのことをしないと。



 朱鳥は駅前の交番に寄った。
 迷子を届けたときの警官がいて、親身に話をきいてくれた。が、炎上や冤罪についての対応はできないと言われた。

 名誉棄損や侮辱罪の可能性があるけど、被害者が警察に届けないとね。
 警察官は困ったようにそう言った。
 朱鳥は当事者ではないから、なにもできない。
 迷った末、彼にメッセージを送る。
< 35 / 58 >

この作品をシェア

pagetop