【書籍化】偽装告白から始まる悪徳外交官の溺愛
 迷ったあげく、メッセージを送った。
『話がしたい。外務省の前まで来てるの』
 意外にもすぐに返信がきた。
『俺は謹慎処分で家にいる』
 スマホを握りしめる。

 彼は悪くないのに謹慎なんて。
 メッセージは続けて届いた。
『仕事は辞めるよ。悪事を告発できて良かったな』
「そんな」
 思わず声が出ていた。

 彼の笑顔が浮かぶ。やりがいがあったよ、と楽しそうだった彼。窓際になっても、それでも残るぐらいに外務省の仕事が好きだったのだろう。それを、朱鳥が撮った動画が奪ってしまうなんて。

 まだ一つだけ。
 朱鳥はぎゅっと唇をかむ。
 まだ一つだけ、彼の窮地を救う方法がある。
 だがそれは朱鳥の破滅を意味する。

 だけど。
 自分のために誰かが犠牲になるなんて、許されるはずがない。それが恭匡なら……愛しい人なら、なおさら。

『仕事は辞めないで。私がなんとかするから。今までありがとう。本当に好きだった』
 震える手でメッセージを打ち、決意を込めて送った。
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