偽装告白から始まる悪徳外交官の溺愛
 実績を作って評価を上げ、一文字三円から五円を行ったり来たりするようになった。
 思い切って会社をやめ、フリーに転身した。

 そこからはきつかった。生活はぎりぎり。経費になりそうなものはすべて領収書を切った。
 月収は十万から三十万と幅があった。
 取材の経費と記事の報酬が見合わず、マイナスになることもよくあった。

 仕事がもらえなかったらどうしよう。
 不安は常につきまとった。貯金はどんどん減っていく。もちろん動物以外の記事も書いた。が、営業をかけてもSNSで宣伝してもクラウドソージングの登録を増やしてもポートフォリオを作り直しても仕事は増えない。

 ライター仲間は次々と辞めていった。もしくは就職してライターは副業にすると言った。
 日々、悩んだ。自分も副業に戻すべきだろうか。
 そんなとき、この出版社で一年契約のライターを募集していると知り、とびついた。
 採用されてほっとした。期間限定とはいえ、やっと生活が安定する。

 うれしかったのは最初だけだった。
 わかっていたとはいえ、内容は芸能人やスポーツ選手の下世話な話ばかり。
 会社のサイトでは動画もアップしている。文章が活躍する場は徐々に削られた。
 今や動画の時代だ。文章でエンタメを発信して、どれだけ顧客を得られるのか。

 それでも朱鳥にとって文章でつづられる世界は——とくに小説は魅力的だ。
 文章ならいつでも静かに自分だけの世界に入っていける。効果音も絵もない世界だからこそ、いっそうに没入できる。

 言葉だけができることがある。
 だからこそ文章の世界に飛び込んだのに。
 人を癒す文章が書きたかったのに。
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