【書籍化】偽装告白から始まる悪徳外交官の溺愛
 帰国してからは人目を避けていた。久しぶりに私用で外に出たのが迷子に出くわした日だった。
 たくさんの大人が行き交っているのに、誰一人として少女の絶望に寄り添おうとしない。

 まただ、と思った。
 また、子どもの絶望が見捨てられている。
 たとえ誘拐犯と誤解されるのだとしても、彼は見過ごすことができなかった。

 少女に声をかけたとき、朱鳥が現れた。
 自分以外に気付く人がいた。うれしさとともに心を惹かれた。デートの申し出に警戒心も湧いたが、喜びもあった。

 彼女との時間に心がはずんだ。
 誘拐犯と叫ばれたときには心が冷えた。
 朱鳥は気付かないふりをしてくれた。
 最初はうれしかった。が、次第に疑心がわいた。なにか目的があるのではないのか。
 かまをかけたら動揺した。だからそれが真実だろう。落胆とともに怒りがわいた。

 好きだ、なんて言うからなおさら腹が立ち、付き合うことを了承させた。
 本当に好きにさせてからふってやる。

 そんな復讐心が余計だった。
 会えば、純朴そうな彼女にいっそう惹かれた。
 ケーキに目を輝かせ、映画の感想を無邪気に言い、彼の言葉に一喜一憂する。愛おしさが止まらなかった。

 一時は確かに良からぬことを考えたのかもしれない。
 だが、きっと彼女は自分を知って思いとどまってくれたのだ。

 誘拐疑惑の動画が上がったとき。
 これは彼女の意志ではないと悟った。
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