【書籍化】偽装告白から始まる悪徳外交官の溺愛
「名前は憶えていません。外交官だと言っていました。お兄さんはアメリカにいる私の祖父母に連絡をとって逃がしてくれました。でもその人は、誘拐犯にされました」
 朱鳥の全身が震えた。
 彼のことだ。絶対にそうだ。

 だけど、彼はどうしてそれを言わなかったのだろう。公表すれば、世間の風当たりはまったく違っていたのに。

「まさか」
「マジかよ!」
 同僚たちに動揺が広がる。

「パパはその人を捕まえようとしました。でも、逃げて無事だったとグランマから聞きました」
 少女は動画の中で告白を続ける。

「パパは世界に、彼が極悪人のように言いました。私は、どうやって彼は悪くないって言えばいいのか、わかりませんでした」
 女の子は悲し気に視線を床に向けた。

「私は怖くて、ずっとグランパとグランマに慰めてもらいました。最近やっと学校に行けるようになりました。そこで友達から動画を見せてもらい、あのときの日本人がまた誘拐犯だと言われていることを知りました」

 航平があげた動画は世界でも話題になったとテレビで言っていた。
 女の子は顔を上げ、まっすぐにカメラを見た。

「そのあと、誘拐じゃないって言っている動画も見ました。これだ、と私は思いました」
 女の子の顔は決意で満ちている。

「私も誘拐じゃないって言うために動画をアップします。彼は私を助けてくれたんです。ガラスを割ったりちょっとは悪いことをしたかもしれないけど」

 朱鳥は目に浮かぶ涙を拭った。
 彼はやっぱり、誘拐なんてしていなかった。
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