偽装告白から始まる悪徳外交官の溺愛



 誘拐の真実はわかったが、問題が解決したわけではない。
 間に合っただろうか。彼は仕事を辞めずに済むだろうか。

 やきもきする朱鳥にかまわず会社の電話は鳴り続ける。彼に連絡する間もない。
 何度目かわからない電話対応を終えて受話器を置く。しゃべりすぎて喉が痛い。

 目にした時計は四時五十分になろうとしていた。
 あと少しで時間外を告げる自動応答になる。
 そう思う彼女の目に、今さら出社した航平の姿が映った。

 彼はまっすぐに朱鳥に歩み寄る。
 その目は充血している。酒臭さに朱鳥は顔をしかめた。
「どういうつもりだ!」
 航平が怒鳴る。フロア中の目が二人に集まった。

「俺のスクープが台無しだ!」
「冤罪を作るのは犯罪よ!」
「とばっちり受けてるこっちの身にもなってよ。電話に出て!」
 凛子が声を張り上げた。
 朱鳥ははっとして電話に出ようとする。が、航平は肩を掴んで朱鳥を振り向かせる。

「ただじゃおかねえぞ」
「なにするっていうのよ」
 朱鳥は思わず手に持ったペン型カメラを握りしめる。
「俺のチャンスをつぶしやがって」
 腕を振り上げる航平に、朱鳥は逃げ場もなく目を閉じた。
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