【書籍化】偽装告白から始まる悪徳外交官の溺愛
「やめろ!」
 男性の声が響いた。
「なんだお前!」
 航平の驚く声に、朱鳥は目を開けた。
 その光景に、飛鳥は声も出ない。

 恭匡が息を切らして航平の腕をつかんでいた。
 さきほどまで彼はいなかった。目を閉じて開けたら彼がいるなんて。
 だが、現実に彼はここにいる。

「離せ!」
 もがく航平を、恭匡は机に押さえつける。
「彼女を傷付けることは許さない」
 断固とした声だった。その目は鋭く航平をにらみつける。

「警察を呼べ! 俺は暴力を受けた!」
「先に殴ろうとしたのはあなたじゃない!」
 朱鳥は自分の手を見て、ハッとした。

「これに録画されてるから!」
 ペン型カメラを差し出して言う。
「私を殴ろうとしたの、警察が来たら見せるから!」

 はったりだった。スイッチは入っていない。だが、信じたようだった。
 航平は舌打ちする。
「警察は勘弁してやる、だから離せ」
 恭匡は朱鳥との間に体を入れ、彼を離した。
 航平は不機嫌にフロアを出て行く。
「川俣さんも電話に出てよ!」
 凛子の叫びが電話の音を裂くように響いた。
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