【書籍化】偽装告白から始まる悪徳外交官の溺愛
「君は人生をかけて俺を守ろうとしてくれただろ? 告発への反論を実名でアップなんて、相当の勇気と覚悟が必要なはずだ」
 わかってくれた。うれしくて、朱鳥の目が熱く潤んだ。

「君は記者?」
「契約のライター。文章で生きていくのが夢だったの。だからってなにやってもいいわけじゃないというのは骨身にしみました」
「君にはああいうのは合わないだろうね」
 苦笑する恭匡に、朱鳥は切り出す。

「エカルダル共和国での誘拐、本当は違うのよね」
「やったことは拉致とかわらない。俺は誘拐犯だよ」
「だけど、命を助けた」

「だから上司は外交官特権で逃がしてくれた。結局、上司が辞職して責任をとった」

「理由を公表しなかったのはどうして?」
「外務省の判断だ。相手は大臣、公表すればエカルダルともめるのが見えている。とはいえ、俺を処分すれば誘拐を認めることになり、国の威信に関わる。だから俺の処遇が曖昧になったんだろう。窓際にして俺が辞めるのを待ってたんだ」

 確かにもめそうだ。救出に正当な手続きを踏むべきだったかもしれないが、その間に命が失われては元も子もない。

「今日、退職を申し出たら外務省に呼ばれた。行ってみたら君が上げた動画とエイベリーの動画を見せられた」
「私と彼女の……」

「すぐに君に連絡した。電話に出ないから、会社の所在地はサイトでわかったし、来てしまった。映画のような救出劇は無理だが、間に合ったようでよかった」
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