【書籍化】偽装告白から始まる悪徳外交官の溺愛
「充分に劇的だったわ。ありがとう」
 あのままでは航平に殴られていた。きっと一発ですまなかっただろう。
 恭匡は微笑し、朱鳥を甘く見つめる。
 どきっとして視線をそらした。

「本当に好きでした、と言ってくれてうれしい。だが、過去形だ」
「もう終わりだと思ったから……」
「俺もそう思っていた」
 彼は言い淀み、それから続けた。

「自分の未練を断ち切るために、あんなメッセージを送ってしまった。君を傷付けた自分を許せそうにない」
「私は許すわ。だからあなたも自分を許してあげて」
 
「だが……」
「あなたは私を許してくれたじゃない」
 朱鳥は笑って見せた。
 恭匡はまぶしそうに彼女を見る。

「優しいな……だから俺は君が好きだ」
 朱鳥はどきっとして彼を見た。

 彼の目が笑みに弧を描く。
 朱鳥はうつむいた。その目から雫がぽたぽたと落ちる。

「うれしい」
 答える声は小さくて、彼は微笑して彼女の頭を抱き寄せ、囁く。
「愛してるよ」
 こつん、とおでこが合わさる。顔の近さに、朱鳥は赤くなってぎゅっと目を閉じた。



 彼と話を終えた朱鳥は、ふわふわした気持ちで会社に戻った。
 離れるのは名残惜しかったが、まだ仕事があるし、彼とはまた会うことができる。
 フロアに戻ると、勝則がデスクに戻っていた。朱鳥を見て上機嫌に笑う。
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