【書籍化】偽装告白から始まる悪徳外交官の溺愛



「お疲れさまでした。お先に失礼します」
 仕事にキリをつけて凛子に声をかけたときだった。
「あんなはっきり言う人だったんですね」
 凛子に言われ、朱鳥は苦笑した。

「さすがに頭に来ちゃって」
「いつもいいようにこき使われて川俣さんにも利用されて、心配してたんですよ」
 あれ? と首をかしげる。

「帆見さん、川俣さんとつきあってるのよね?」
「なんで?」
 心底驚いた様子で凛子は言う。

「川俣さんがそう言ってたの」
「なんですかそれ、気持ちわる! 私はつきあって十年の彼氏がいて、この前プロポーズされたんです!」

「じゃ、なんで?」
「まさか、この前食事に行ったから? 私にしか相談できないって言われて仕方なく行ったら、恋人と別れようかと思うって言われて。好きにしたらって答えたんですけど。それだけで付き合ったとか思うの? ますます気持ちわる! 会社やめよ!」
 凛子の勢いに、朱鳥は苦笑した。



 後日、会社は計画倒産すると社長から告げられた。
 炎上の余波は止められず、対応で嫌気が差したらしい。

 航平はあの日以降、現れなかった。
 ネットでバッシングを受けたし、恥をかいて会社にいられなかったのだろう。
 ライターが逃げるのはたまによくあるから、誰も心配しなかった。

 朱鳥と凛子は遊びに出かける仲になった。
 エカルダル共和国でもエイベリーの動画は話題となり、彼女の親は真実を追求された。
 彼らは否認し、証拠がないため断罪はされなかった。
 だが、民衆はそれを許さない。彼は失脚し、大臣どころか議員の地位も失った。
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