偽装告白から始まる悪徳外交官の溺愛
終章



 一カ月後、契約を満了した朱鳥はライターを休業していた。真実の体験記をと各出版社から依頼が殺到し、断るのが大変だった。こんなことになるとは思いもしなかった。

 そして現在、朱鳥は恭匡とともにアメリカに居た。
「どうしてこんなことに」
 つぶやくと、隣にいる恭匡が苦笑する。彼はもう顔を隠す眼鏡をしていない。

「君が招待を受けたから」
「そうだけど」
 朱鳥は困惑するばかりだ。

 彼女は恭匡とともにホワイトハウスにいた。
 イーストルームと呼ばれる部屋で、レセプションパーティーが開かれていた。
 中央の演台の左右には肖像画がある。右が初代大統領のジョージ・ワシントン、左がファーストレディのマーサ・ワシントンだ。

 天井には大きなシャンデリアがあり、煌々と室内を照らしている。クラシカルな模様の入った白い壁に、辛子色のカーテンが映える。
 着飾った男女が笑いさざめき、まるで別世界だった。

 そもそも呼ばれたのは恭匡だ。少女を救った英雄として大統領から招待された。少女はアメリカ在住だから、アメリカでも恭匡のことはおおいに話題になった。
 汚名を怖れない勇敢な彼の行動に、正義が大好きなアメリカでの人気は高い。
 それどころか、今や世界でヒーローナンバーワンの扱いだ。

 恭匡のアメリカでの名声を受け、外務省はようやく彼の行いを認めた。
 日本の世論は、もっと早く発表するべきだったと外務省と政府を責めた。

 朱鳥は恭匡に誘われたから来た。他人の――アメリカ政府のお金で海外に行ける、ネタになるかな、と浮かれていた。パーティーも一緒に来ないといけないとは思っていなかった。
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