偽装告白から始まる悪徳外交官の溺愛
 会員制のティーラウンジなんて行ったことがない。ネタが得られるかもしれない。しかも他人のおごりだ。

 朱鳥は背の高い彼と並んで歩き、ふと、彼を見たことがある気がしてきた。
 下からジーっと見ていると、彼がふりむいた。

「どうしました?」
「どこかで会ったことありましたっけ?」
「ナンパにしては古い手をつかいますね」
「ち、違います!」
 朱鳥は慌てて否定した。

 男性はくすくす笑い、朱鳥は恥ずかしくてうつむいた。
 長い前髪はイケメンを隠すためだろうか。ナンパが嫌になって顔を隠しているとか。
 もったいないなあ、と思いながら朱鳥は隣を歩いた。



 ティーラウンジは広々としていて、高級感とともに落ち着いた雰囲気が漂っていた。
 古倉美幸の名を伝えると、窓際の席に案内された。
 シックな楕円のテーブルを挟み、白い革張りのソファが向き合っている。

「ご予約はアフタヌーンティーのセットで伺っております。お飲み物はいかがなさいますか?」
「アイスコーヒーを」
「私も」
「かしこまりました」
 ウェイターが下がる。

「あのお母さんにカップルだと思われちゃいましたね」
 男性は苦笑した。
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