君に初恋が届くまで

Prologue

 これは、10年程前の出来事。
 私がまだ小学校に入る前の頃の話。





 「それ、何読んでるの?」

 公園で一人本を読む男の子を見つけ、私は声をかけた。

 「これは……辞書」
 「じしょ?何それ……うわ、字ばっかりじゃん!」


 戸惑いながらも彼は持っていた本を私に見せてくれた。何故そんなものを見ているのか聞くと。


 「ぼく、日本にきたばかりで、字が上手く読めないんだ」

 どうやら帰国子女らしく、読み書きが難しくてその勉強をしていたらしい。だが、その当時の私には詳しい事は理解できず、ただ外国からきたという事が珍しくて、その男の子に興味が湧いた。


 「もっとおしえてよ!君のすんでたまちのこと!!」


 そう言えば、今まで縮こまっていた彼がようやく笑った。


 その笑顔は今でも忘れない。

 真っ黒の髪がさらりと揺れ、長めに伸びた前髪からはっきり見えた瞳が、きらりと光を反射させた。


 その姿を見た私は、幼いながらも彼を美しいと思った。


 そう、彼の名前は……



 "ゆうくん"



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