瀬渕さんは、総務部長を愛したい。
「瀬渕さん! 何かできることはありますか!?」
一般社員 渡邊玲花、24歳。
私より年下の後輩。
…本当の意味での、後輩。
元気いっぱいで、社内でも可愛がられる存在だ。
「…あ、そういえば。来客用の湯呑をしまって、冷たいお茶用のグラスを出そうと思っているの。それ、一緒に手伝ってくれる?」
「分かりました! てか、私一人でやってきます!!」
「大丈夫? 分かる?」
「分かります!」
そう言って総務部室から出て行った。
やる気があるのは良いことだ。
「………」
やる前から決めつけるのは良くないが、彼女もまたミスはピカイチ。
少しだけ、不安が過ぎる。
「………」
ガッシャーーン!!!!
「きゃあぁぁぁぁぁ!!!!」
「………」
ほ~ら…。
炊事場から聞こえてくる、沢山の何かが割れる音。
いや、信じた私も悪い。
疑っていたんだから、断られても一緒に行くべきだった。
そう思いながら炊事場に向かう。
床には、粉々になった湯呑が2、3個落ちていた。
「せせせせ、瀬渕さん!! ごめんなさい、ごめんなさい!!!!」
「………いや、まぁ…良いよ……」
そう言いながら割れた湯呑の破片を拾う。
……大丈夫、想定内。
むしろ、私が悪い。
「…………」
湯呑、買わなきゃ。
また部長に……報告しなきゃ…………。
「…うわっ、なになに!?」
そんな声に顔を上げると、すぐそこに市野部長が立っていた。
コーヒーを淹れに来たのか、マグカップとドリップバッグを手に持っている。
「部長…すみません。清掃中です」
「あぁ……私が悪いのです。私が割りました!! すみません、すみません!!!!」
勢いよく立ち上がり、深く何度も頭を下げる渡邊さん。
……報告する手間が、省けたな。
「湯呑割れてしまったので、新しく購入してもよろしいでしょうか」
「そりゃあまぁ使うし。…買わないといけないよね。良いよ」
「ありがとうございます」
部長に向かって一礼をして、また破片を集める。
「私、箒とちりとりを持ってきます!!!」
そう言って倉庫に走っていく渡邊さん。
「……」
黙って破片を拾っていると、部長もその場にしゃがんで、破片を拾い始めた。
「え、部長!! 私がやりますから良いです! コーヒーを淹れてください!」
「…いや、大丈夫。…本当、瀬渕さんには…負担を掛けるね。ごめんね、部員の面倒まで見て貰って」
「………」
悲しそうな声を出し、破片を集めてくれる部長。
その様子にまた…胸が痛む。
「い…市野部長も大変ですから。前も言いましたけど、私…部長の力になりたいので…。このくらい、全然…」
「……」
部長は破片を持ったまま顔を上げ、私の顔を見る。
そして…ふっと微笑んだ。
「もう充分、俺の力になってくれているよ。いつもありがとう」
「………」
「これからも頼むよ」
「…部長……」
その言葉に、涙が滲んだ時…。
「きゃああああ!!!!」
「…えっ!?」
倉庫から渡邊さんの叫び声が聞こえて来た。