瀬渕さんは、総務部長を愛したい。
「瀬渕さん、聞いてくれる?」
今日も残業。
部長は私と2人になったタイミングで、そんな言葉を漏らす。
「桐谷くん、『直しました~』って書類を持ってきたのは良いけどさ、半分くらい直って無かったわけよ!! 君の目どうなってんのみたいな。本当に詰めが甘いってレベルじゃないよ!!」
「……大変ですね」
はぁぁぁ、と大きな溜息をつき、デスクに顔を伏せる部長。
「瀬渕さん、俺もう疲れた…。助けて…」
「………」
弱々しく泣き言を漏らす部長に…心臓が騒ぎ出す…。
「……部長…。どうやったら…助けられますか…」
「どうなんだろうね…、俺も良く分からないや」
「………」
はぁ…と、また大きな溜息。
可哀想な部長…。
やっぱり…そんな部長のことを、私が助けたい…。
癒したい……。
……愛したい…。
「……」
そっと部長のデスクに近寄り…伏せている部長の横に立つ…。
ドキドキする心臓を抑えながら、言葉を発した…。
「…部長。…辛そうな部長のこと、癒し…助けたいです…」
「…え?」
「私では頼りないかもしれませんが…。市野部長…私に、甘えてみませんか…?」
「………瀬渕さん…」
ゆっくりと顔を上げた部長は、驚いたような表情をしている。
私はそっとしゃがんで、手を部長の方に伸ばす…。
すると部長も、同じように手を伸ばした。
「部長…」
「瀬渕さん……」
お互いの手が、お互いの頬に触れる直前で………
ガチャッ!!
突然開いた、扉!!
扉の開く音と共に、私は飛び上がるように立ち上がる。
「お、部長と瀬渕さん? まだいたの?」
「営業部長!! お疲れ様です!!」
総務部室に入ってきたのは帰り支度をした営業部長だった。
営業部長は一歩だけ部屋に入り、ぐるっと見回して微笑んだ。
「総務も忙しそうで大変だね。今日は総務が最後っぽいから、退社時の戸締りしっかりお願い。じゃあ、お疲れ」
「お疲れ様です」
そう言って…部屋から出て行った。