瀬渕さんは、総務部長を愛したい。
「…部長、飲酒会って…突然どうしたのですか」
今日も2人で残業。
私がそう問うと、少しだけ口角を上げて首を傾けた。
「俺が飲みたい口実」
「……」
「瀬渕さんも、飲みたくない?」
「ま、まぁ…飲みたいですけど…」
首を傾けたまま微笑んでいる部長。
そんな姿に心臓が飛び跳ねた。
「いつも頑張ってくれている瀬渕さん。たまには羽目を外して…楽しんで欲しいな」
「………」
優しい笑顔の部長を思わず抱き締めたくなった。
私、市野部長のこと…好きだな…。
……ふと、そう実感する。
「…そうですね。どうせ行うのでしたら、楽しみたいです。部長と、ご一緒に」
「……」
総務部室を包む、甘くて蕩けそうな…妙な雰囲気。
高鳴る心臓。
私の目線の先で、頬杖をついて私に向かって微笑んでいる部長。
「……愛したいな…」
思わず漏れ出た言葉。
心の中にある本音が…出てきそうな感覚に襲われる。
「あの、部長。…私、部長のこと……………」
「……瀬渕さん…?」
「…………あ…いや…」
そこまで言って…言葉を継ぐのを止めた。
「や、やっぱり何もありません。あ、部長。今日はもう帰りますね!」
「…え、瀬渕さん?」
「お先に失礼します!」
「あ、え…?」
驚いている部長を横目に、飛び出すように総務部室を出る。
……ワンナイトまでしたのだから。
あのまま素直に想いを伝えても良かったと思う。
けれど、何だか怖くて。
身体を重ねたのに、もしその気持ちを拒否されたらと考えたら…その後が怖くなって。
喉まで出てきていた感情は……吐き出さずに全て飲み込んだ。
部長は…どういうつもりで私を抱いたのか。
そんなこと…部長にしか、分からない…。