瀬渕さんは、総務部長を愛したい。

部長の思い



「………ごめんね、瀬渕さん…。俺まで君に迷惑を掛けている」
「全くですね。もう少し自己管理をしてもらって良いですか?」



少しだけ回復した部長。
それでも1人では歩けないと泣きごとを言っていた彼に肩を貸し、家まで送ることになった。


因みに他の男3人は2次会へ、渡邊さんはタクシーで家に帰って行った。




「…本当なら、私が送ってもらいたいくらいですけど」
「そうだね、ごめんね。ごめん…」



消えそうな声で呟くような部長…。
その様子にまた、いつも通り私は辛さを覚える。



「ごめん、瀬渕さん。俺は本当に、君がいてくれないと困る。君がいてくれなかったら、俺は今日…家に帰れない…」
「そこですか」
「…いや、冗談。…本当に、日頃から瀬渕さんには助けられているよ。ありがとう、いてくれて。そして、俺を助けてくれてありがとう。瀬渕さん、ありがとう…ありがとう…」
「………」


よ……酔っぱらっているな………。

あまりにもストレートすぎる言葉に、心拍数が上がる。


「………」


けれど、今なら…私も色々と言える気がした。


「…部長を助けるのは当たり前のことです。私、市野部長のこと、支え、助け…癒し…愛したい。いつも頑張っていて、辛そうな部長。……私、部長のことが好きなんです。だからそんな好きな人のこと…1番近くで……」
「…ストップ、瀬渕さん」
「……」


私の肩にもたれ掛かったままの部長。

ふぅ…と小さく息を吐き、言葉を継いだ。


「…俺も、好き。…一度抱いてしまって…ごめん。俺の中に特別な感情があったから、止められなかった」
「あれは…お互い様です。でも、私…嬉しかったです。部長に抱いてもらえて…」
「…瀬渕さん……」
「あの日のこと、部長の中では無かったことになっているのかと思っていました」
「そんな訳無いだろう…。どうしようか、悩んではいたが…………」
「?」


その言葉の途中で固まり、口元を押さえて黙り込んだ。


「……部長?」


暫くすると、「ごめん、トイレ」と言って、ふらつく足取りで近くのコンビニに吸い込まれて行った。


「……この、酔っ払いが…」


はぁ…。良いところだったのに…。
空気の読めない吐き気。


「………」


私の酔いは、すっかり醒めてしまったみたい。


部長の口から出てきた「好き」という言葉。
アルコールが入っているとは言え、その言葉が聞けた事実が嬉しくて、思わず心が踊る。


「…部長を、愛したい」


いつからこんなに、その気持ちが…大きくなったんだろうなぁ…。


自分のことなのに。
それだけが分からないでいた。



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