瀬渕さんは、総務部長を愛したい。
酔っ払いをどうにか洗面所に行かせ、その間に部屋の中を見回す。
実は初めて入った部長の家。
黒を基調とした家具が揃えられており、大人な雰囲気が漂っている。
「瀬渕さん…お待たせ」
「……」
部長が隣に座るのと同時に頷き、そっと部長の体にもたれかかった。
「歯磨き完了したよ」
「え、そこまで言っていませんけど」
「なんか…そんな雰囲気だったから」
「………」
横でネクタイを緩め、シャツの第1ボタンを開けている。
たったそれだけのことに…何だか胸がキュンとしてしまう。
「………」
顔を動かして部長を視界に入れると、軽く触れるだけのキスをしてくれた。
「ねぇ、ところでさ。水は?」
「……」
「飲ませてくれるんだよね…?」
目に力が入っている部長。
その目は…もう…。
「……部長。酔い、少し醒めてますよね?」
「い、いや…全然……」
「嘘つきです」
「………」
不自然に目を逸らしては、またこちらを見る。
そんな部長が可愛らしく感じてしまい、思わず飛びついた。
「……まぁ。水なら、いくらでも…」
さっき買ったペットボトルを手に取り、少量の水を口に含む。
そして部長の頭を支えながら、そっと唇を重ねた。
「……」
口、開いて貰っても良いですか?
唇で唇を軽く撫でるように動かすと、唇を開いてくれた部長。
その隙に、ゆっくりと水を流し込んだ。
「………」
ゴクッと、喉が鳴るのを確認して、口を離す。
部長の目は潤んでおり、口からは水が漏れ……。
日頃の姿からは想像もできない色気に、思わず眩暈がした。
「…部長、反則です。そんな表情、他所でしては駄目ですよ」
「………どんな表情だよ…」
「……」
その言葉には返事をせず、また私から唇を重ねた。