瀬渕さんは、総務部長を愛したい。
「門倉ぁ!!! また伝票が違う!!!」
「あ、すみません」
「すみませんで済んだら、総務部長はいらーーん!!!」
部長がそう叫ぶと同時に、伝票が宙に舞った。
今日も部長の怒り声が飛び交う騒がしい総務部室。
いつもと変わらない光景なのに、何だか部長も楽しそうで思わず微笑みが零れる。
あの日以降、仕事中の部長は前ほどイライラしなくなっていた。
「…市野部長、最近優しいですよね」
「やっぱりそう思う?」
「怒りながら少し笑っています」
「……そうね」
渡邊さんは鋭い。
そういう人の変化にも敏感。
それがたまに、総務での仕事に活かされることもある。
「はぁ…次は桐谷だな。ちょっとこっち…」
そう言って顔を上げた部長と、何故か私の目が合う。
「………」
そっと微笑み、視線を桐谷さんに向ける部長。
「……」
……良かった。
2人きりの残業時間には
部長の愚痴を聞きながら、頭を撫で…抱き締めている。
そんな日々の積み重ねで部長の心に余裕ができているのなら、これほど光栄なことはない。
「…部長、今日もお疲れ様でした…」
「瀬渕さん…ギュッとして」
定時後、2人きりになると少し潤んだ瞳で私に抱きつく部長。
日中とは全く違う、甘えた姿に心臓が鳴り止まない。
…可愛い。
大好きな市野部長。
今日も私は、そんな部長を
支え、助け…癒し……心から、愛する。
瀬渕さんは、総務部長を愛したい。 終