瀬渕さんは、総務部長を愛したい。


市野部長、45歳。

独身。
苦労人。



そんな彼は、最近…記憶喪失が激しい。



「部長、さっきお預けした書類の件ですけど」
「書類? 何かあったっけ?」
「えっ、決裁を頂きたい起案です」
「………何だろう」


机の上の書類の山を漁り始める部長。


「そんなのあったっけ?」」


そんな呟きと共に崩壊する書類の山…。


「あぁぁぁぁぁぁ!!」
「…………」


はぁ…と大きな溜息をつき、血走った目をこちらに向けて一言。


「瀬渕さん、探しとくよ。ごめんね…」
「…………」


崩壊した書類の山から1枚ずつ紙を手に取り、中身を確認しながら再び山を作り上げ始めた。




部長…。
本当に可哀想……。



そんな部長の様子を見ているから。
私が部長の力になりたいと思うのに、どうも力不足らしい。



総務部主任、27歳の私。
部内での立場は上から3番目だが、年齢で言えば2番目に若い。


年功序列という言葉が色濃く残る社風。


私の場合、勤続年数は長くても年齢が足を引っ張る。
乗り越えられない年齢の壁があったのだ。


今の私では…部長の手助けもできない。


「…………」


自己判断をする人と、やる気有りと無しのそれぞれミスばかりする人。


3人の問題児。
この人たちを上手く使えたらいいのに…と部長はよく嘆いている。




辞めさせて違う人をいれたら?
と、他部署の人は無責任にそんな言葉を漏らす。

けれど、そういう簡単な問題じゃないんだ…なんて言いながら市野部長が頭を抱える。




これがもう、お馴染みの光景になっていた。




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