瀬渕さんは、総務部長を愛したい。
「あ…これ、社長決裁貰わなきゃ…。こっちは…何だったっけ?」
またある日の定時後。
私は市野部長と2人、残業をしていた。
「部長…。榎本さんが退職してから、本当に大変ですね」
「もうね、泣きたい。毎日毎日辛い」
いつも掛けてる眼鏡を外し、両手で顔を覆う部長。
そんな可哀想な様子を、私はただ眺めているしか無かった。
「…あの、部長。私では限界があるかもしれませんけれど…。出来ることがありましたら、お力になりたいと思っております。どうか、頼って下さい」
力不足なのは重々承知。
だけど、どうしても伝えたい…その言葉。
そう言うと部長は眼鏡を掛けて、私の方を見た。
「…いや、もう既に瀬渕さんには、かなり助けられているよ。君がいなかったら総務部の状況はもっと悪かったはずだ。いつもありがとう」
「……」
胸が…キューッとした…。
そんなこと言う余裕なんてないはずなのに。
無理して口角を上げる部長の姿に、涙が込み上げた…。