瀬渕さんは、総務部長を愛したい。

総務の暴走列車



「市野さん。この間検討したA社との取引の件ですが、回答期限までもう少しだったので、こちらでお返事しておきました!」
「…………え、待って? それって、総務で検討した結果を社長に報告するから、俺が先方に返事するって話じゃなかったっけ?」
「いえ、違ったと思います。A社の話を受けたのは僕ですから!」


うわ…出た、通称 ”総務の暴走列車”。
津村(つむら)遥也(はるや) 課長代理、38歳。


津村さんの報告により、一瞬で変わる総務部の空気感。
ピリッとした市野部長に…総務部員みんなが唾を飲む。


「……いやまぁ…仮に違ったとしてもさ。報告する前に一言なんかないわけ?」
「だから今、こうやって報告をしています!」
「事後報告じゃダメだろ!!」


はぁ……と大きな溜息をつき、頭を抱える部長。

…今日もまた、可哀想。


「いいか、津村くん。何事も事前報告が当たり前だ。俺が不在ならメッセージや電話でも良いから、とにかく前もって報告をすること。報連相が基本だ」
「…………?」
「…何でそんなに不思議そうなんだよ…」
「前も後も、どちらも報告なら同じだと思いまして!」


津村さんのその一言に、部長の怒りは頂点に…!!

机を叩き、椅子から立ち上がった部長は、津村さんの胸倉を掴んで叫んだ。


「馬鹿かお前、前と後では全然違うんだよぉ!!!! 勘弁してくれよマジで、お前…課長代理だぞ? 一応総務部では俺のすぐ下なんだから…頼むよ…」
「市野さんの期待に応えられていると、自負しております!」
「あぁ!? 全然応えられてないからな!?」


部長は手荒に津村さんから手を離し、また溜息をつきながら椅子に座った。


ケロッとした表情の津村さん……。
メンタルが最強なのか、部長を舐めているのか…。


どちらにせよ。
恐ろしい人だよ…本当に。



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