瀬渕さんは、総務部長を愛したい。
市野部長は、定時を過ぎた19時頃戻って来た。
総務部室にはもう私しかいない。
「…部長、お疲れ様です」
「瀬渕さん…。お疲れ。まだやってたの」
「忙しくて」
「……ごめんね、負担を掛けますね」
「………」
疲れ切っている部長の表情に胸が痛む。
そんな部長に対して、津村さんの件を報告しなければならないなんて…。
「…部長、お疲れのところ申し訳ございませんが、頭が痛くなるご報告があります」
「え!? いやだ、聞きたくない!!」
「そう仰らずに…」
私は津村さんが行ったA社との契約について、事細かに部長に報告をした。
「………」
話を進めるにつれて曇っていく、黙ったままの部長の顔。
そしてついに………机に顔を伏せてしまった。
「…瀬渕さん。泣いて良い?」
「……どうぞ」
怒りを通り越して、悲しいと嘆いている部長。
何度言っても言うことを聞かない津村さん。
部長の心情は…計り知れない。
「勝手なことされて、最後尻拭いするのは俺じゃん? 何で彼はそれが分からないかな…。組織なんだから、自己判断で行動したら駄目だって…何で分からないんだろう」
「……」
数本の白髪が混じった、市野部長の黒い髪の毛。
可哀想で、何だか慰めたくて。
ほんの少しだけ、触れてみたい衝動に駆られた。
市野部長のこと、私が癒したい。
「…………」
ダメダメ。
部長だから。
手を引っ込めて、自分の席に戻る。
「部長…本当に、お疲れ様です…」
そんな言葉を掛けるので、精一杯だった。