名門の魔法学校を首席で卒業した私、「女のくせに生意気だ」という理由で婚約破棄される〜代わりにもらってくれたのは、入学からずっと首席争いをしていた次席のライバル王子でした〜
 あまりにも超常的な現象を前に、私は唖然と立ち尽くす。
 しかしこの疑問の答えに、たった一つだけ心当たりがあった。

「もしかして、飛行魔法……?」

 人という種を、地上から解放し、空の領域へ踏み込ませる夢想の魔法――【神の見えざる翼(フリュー・ゲル)】。
 永続的な滑空と浮遊を可能にするその飛行魔法は、唯一『五階位』の位を与えられた超高等魔法だ。
 この三百年間、誰一人として習得できなかった魔法で、私だって魔導書を読み込んでも使うことができなかったのに。
 ディルはこの土壇場で、飛行魔法の感覚と真髄を掴んだっていうの?
 黒竜(シャドウ)を止めたいという強い気持ちが、彼を一つ上の次元へと覚醒させた。
 類稀なる魔法の才覚を持った、神童ディル・マリナードの真価が、今ここで発揮される。

「はあっ!」

 ディルは高速飛行により、瞬く間に黒竜(シャドウ)の真後ろに接近する。
 その気配を察したのか、黒竜(シャドウ)は後ろを振り返って威嚇するように咆哮した。

「グオオォォォ!!!」

 次いでディルを迎撃するように火炎の息吹を吐き出す。
 思わぬ反撃に私はつい小さな悲鳴を漏らしてしまうが、ディルは不可視の力に引っ張られるように真横へ回避した。
 続け様に放たれた炎も、空を泳ぐようにして自由自在に掻い潜っていく。

「……すごい」

 思わず口からこぼれた称賛の台詞。
 私が習得できなかった五階位の飛行魔法を、この土壇場で使えるようになって、しかもそれをいきなり完璧に使いこなすなんて……
 紛れもない稀代の天才魔術師だ。
 ディルは華麗な飛行で黒竜(シャドウ)の迎撃を潜り抜けると、氷の長剣を生成する二階位魔法によって武器を作り出した。
 それを右手で振りかぶり、飛翔の勢いと共に全力で振り抜く。

「せ……やあっ!」

 ディルのその一撃は、黒竜(シャドウ)の負傷していた右翼に見事に直撃した。
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