名門の魔法学校を首席で卒業した私、「女のくせに生意気だ」という理由で婚約破棄される〜代わりにもらってくれたのは、入学からずっと首席争いをしていた次席のライバル王子でした〜
第四話 「挨拶は大事です」
 屋敷に来てから一週間が経過した。
 その間私は、ディルに言われた通りに屋敷にいるだけの生活をしている。
 書斎で魔導書を読んだり、気分転換に庭を散歩したり、たまにキッチンを借りてお菓子なんかも作ったり……
 一言で言えば“自由”そのものだった。
 ディルの婚約者らしいことは何もせず、本当に好きなことだけをする日々。

 あまりにも幸せな毎日だ。
 ここまでいい暮らしをさせてもらうと、自然とあることを想像してしまう。
 もしあのままマーシュ様と婚姻して、ウィザー侯爵家に入っていたとしたら、どんな生活を送ることになっていたんだろうと。
 侯爵夫人としてマーシュ様の命令に絶対的に従わなければならず、色々な雑事を押しつけられることになっていたのはまず間違いない。
 私が自由に過ごせる時間は限られていたと思うし、何より険悪だったあの人から心ない言葉をかけられ続ける苦痛の日々を送ることになっていただろう。

「……ディルに拾ってもらえて、本当によかったなぁ」

 私は書斎で魔導書を読みながら、しみじみとそう思ったのだった。
 そもそも婚約破棄された後、あのまま誰にも拾ってもらえていなかったとしたら、ウィザー家に入る以上の地獄を見ていたかもしれない。
 実家の貧困問題解決のために社交会へ足繁く通わなければならず、男を立てられない愚女という噂のせいで、大勢の参加者たちから非難を浴びることになっていた。
 私は思っている以上に、ディルにとんでもない窮地から救い出してもらったのかも。
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