奴だけには恋したくなかった
「まさか……」

私はコピーの束を見て、呆然と立ち尽くした。


仕事が終わって、オフィスビルを出ると、私は目の前の居酒屋を覗いた。

カウンターの端に、奴が座っている。

「本当だったんだ。」

ゴクンと息を飲んで、居酒屋のドアを開けた。

すると、奴が”おうっ”と手を挙げた。

意を決して、奴の隣に座った。


「どういう風の吹き回し?」

「警戒するなよ、同期の中じゃないか。」

「するわよ。女泣かせのあんたに、呼び出されるなんて。」

じーっと奴を見ると、奴は意味深に笑っている。

「話があるんだ。」

「話?」

ちょっと顔を近づけると、奴の顔も近づいた。

「美月。俺の彼女になってくれないか。」

「はあ⁉」

「一時でいいんだ。」

その言葉に、言葉を失った。

「親に勧められた結婚を断る為だよ。」

奴は、軽快に私の肩を叩いた。
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