奴だけには恋したくなかった
壁に背中を付けると、二人がキスをする音がしてきた。

いやあああ!沙雪さん、絶対この男に弄ばれてる!!

あの優しくて、女性社員の憧れの的が!

鬼畜の最低最悪男に心奪われるなんて!


「そう言えば僕、今夜デートだった。」

私は勢いよく振り向いた。

あんた、今夜デートする相手がいるのに、沙雪さんとキスしてんの⁉

「分かったわ。また今度ね。」

沙雪さんは、名残惜しそうに戻って行く。

なんだか、怒りで体が震えてきそうだ。


「出て来いよ、坂本。」

身体がビクッとなった。

私がここにいるの知ってるの?

「打ち合わせ、遅刻してるけど?」

「ぎゃあああ!」

慌てて廊下に出ると、奴が腹抱えて大笑いしている。

「人の恋愛覗いている間に、仕事しろよ。」
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