奴だけには恋したくなかった
私の胸に、不安が過る。

「まさか、莉乃さん。あいつの毒牙にかかったんじゃ。」

「ふふふ。昔の話よ。」

肩をポンと叩かれたが、笑えない!

あいつ、莉乃さんにまで!


「じゃあ、打ち合わせ初めていい?」

海田先輩が、仕切り直す。

「はい。」

皆が資料に目を落とす。


「ビールの広告だね。ウチの会社を使ってくれるのは初めて。」

「この会社って、長年付き合っている得意先に、広告を依頼してたんですよね。よりによって、今回何故ウチの会社に?」

ふと営業の名前を見ると、目が飛び出しそうになった。

「もしかして、あの鬼畜……」

「そうだね。上島君の力があってね。」


奴は、営業成績トップ。

こんな一流企業の広告も、平気で持ってくる。

「そこが、奴の凄いところなんだよね。」

私は唸りに唸った。
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