奴だけには恋したくなかった
「まさか、同じ会社に入るとは思わなかったけどね。」

先輩もニコニコしている。

まさか名前で呼ぶぐらい、慕っているなんて思いもしなかった。


「ほら、できてるよ。コピー。」

奴に言われ、指さした方を見ると、きれいに部数事並んでいた。

「ありがとう。」

そう言うと、奴はじーっと私を見ている。

「何?」

「いや、まさか……お礼を言われるなんて。」

「はあ?私だって、ありがとうくらい言うし。」

その瞬間だった。

奴の綺麗な瞳が、私の目に飛び込んできた。

なんて澄んでいて、吸い込まれそうなんだろう。


そして奴が、私の側に寄って来た。

「えっ……」

咄嗟に身構えると、奴は私の耳元でこうつぶやいた。

「今夜、目の前の居酒屋で待ってる。」

振り向くと、奴はそのまま企画部を出て行った。

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