首なしアリスは■■のもの
誰と話しているのだろう……水無君ではないと思う。
彼の前では心は少しだけ猫を被っているから、苛立ちをぶつけたりしないはずだ。
盗み聞きはいけないとわかっていても、気になってしまう。
声は、すぐ傍で聞こえたわけではない。
少し離れていると思う。
そうっと、ホールのほうを覗いてみて――少しだけ、驚いた。
「さあ、みんなでクロッケーでもしてみたら?」
心の前で楽しげな声を発しているのは、恭君だった。
正直、今の恭君と対峙するのは、少し勇気がいると思う。
何しろ彼は、普通じゃない。
証拠に、ずっと不気味に、ひひ、と小さな笑い声を漏らしている。
だからこそ、心がどうして彼と二人きりで話しているのか気になった。
「ふざけないでよ! 公爵夫人は何をすればいいの!?」
そんな心の台詞で、先ほどまでの疑問は解消された。
心は、自分の役割が何をすべきか彼に訊いているのだ。
恭君や波多君のように、演じれば助かるかもしれないという結論にでも至ったのだろうか。
「そんなに怒らないでよ、やっぱり公爵夫人は醜いなぁ」
恭君は心を嘲るような口振りだ。